「年利5%超え!」「不動産担保付きで安心!」
ソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)の世界では、こんな魅力的な言葉が並びます。特に「不動産担保」という響きは、私たち投資家に大きな安心感を与えてくれますよね。銀行預金の金利が限りなくゼロに近い今、少しでも高いリターンを求めるのは自然なことです。
しかし、その「安心感」は本物でしょうか?
最近、ある不動産担保型ローンファンドの募集内容を詳しく分析したところ、具体的なファンド名は伏せますが、この案件は、一見すると魅力的ながら、慎重な投資家が決して見過ごすべきではない「危険な兆候」をいくつも含んでいました。
この記事では、特定の企業や案件を非難することが目的ではありません。むしろ、この一件をケーススタディとして、私たち個人投資家が、自らの大切な資産を守るために「何を」「どのように」チェックすべきか、その具体的な方法を共有したいと思います。
チェックポイント1:プラットフォーム運営者の「過去」を調べる
投資の第一歩は、そのファンドを組成・募集する運営会社の信頼性を見極めることです。ウェブサイトが立派でも、素晴らしい実績を謳っていても、まず確認すべきは「規制当局からの行政処分歴」です。
金融商品を扱う企業は、金融庁や財務局の厳しい監督下にあります。過去に行政処分を受けたことがあるか、あるとすればその理由は何か。これは企業のコンプライアンス意識やガバナンス体制を測る上で、極めて客観的な指標となります。
例えば、今回参考にした案件の運営会社は、過去に複数回、関東財務局から行政処分を受けていました 。処分の理由には、投資家から預かった資金を会社の資産と分けて管理する「分別管理」が不適切であったことなどが含まれています 。これは金融機関にとって最も基本的な義務の一つであり、投資家保護の根幹に関わる問題です。
もちろん、過去の処分をもって直ちに「危険」と断じることはできません。しかし、こうした事実は、投資家がそのプラットフォームを信頼できるかどうかを判断するための、動かぬ証拠の一つと言えるでしょう。
チェックポイント2:融資先の「財務状況」を想像する
「不動産担保があるから、融資先の会社がどうであれ関係ない」と考えるのは早計です。融資先企業の健全性は、返済の確実性に直結します。
残念ながら、多くのソーシャルレンディングでは、融資先の詳細な財務情報(決算書など)は開示されません。しかし、私たちは開示された情報から、そのリスクを推し量る必要があります。
ここで一つ、考えてみてください。もし、融資先が「債務超過」、つまり資産より負債の方が多い状態だったらどうでしょうか?
通常、銀行が債務超過の企業に新規融資を行うことは極めて稀です 。なぜなら、返済能力に重大な疑問符がつくからです。ソーシャルレンディング業界でも、過去に財務的に困窮した企業への融資が、最終的に大規模な貸し倒れにつながった事例は後を絶ちません 。
あなたが検討しているファンドの融資先は、事業から得られる利益で利息や元本を返済できる体力があるのでしょうか?それとも、担保不動産の売却という、一度きりの「出口」に全てを依存しているのでしょうか?後者の場合、その投資は「融資」というより、ハイリスクな「不動産投機」に近い性質を帯びてきます。
チェックポイント3:担保評価の「根拠」を疑う
「担保評価額2億円、融資額1.5億円なのでLTV(融資比率)は75%。安全です」
このような説明を鵜呑みにしてはいけません。重要なのは、LTVの数字そのものよりも、その分母である「担保評価額」がどのように算出されたかです。
担保評価には、大きく分けて2つのレベルがあります。
ココがポイント
- 不動産鑑定士による、法に基づいた「不動産鑑定評価」
- 不動産業者へのヒアリングなどによる「査定」や「価格調査」
言うまでもなく、客観性と信頼性が高いのは前者です。後者の場合、評価額が希望的観測に基づいて過大に算出されている可能性を否定できません。
もし、担保評価額が20%過大だったら?LTV75%は、実質的には90%を超え、少しの価格下落で元本割れのリスクが現実味を帯びてきます 。あなたの投資案件の担保評価は、独立した第三者によって客観的に行われているか、必ず確認すべきポイントです。
チェックポイント4:市場の「熱狂」に距離を置く
今回参考にした案件の担保不動産は、近年、海外からの投資で地価が急騰している、ある有名なリゾート地にありました。地価上昇率が全国トップクラスになるなど、まさにバブルの様相を呈しているエリアです 。
このような市場は、大きなキャピタルゲインの可能性を秘めているように見えます。しかし、熱狂の裏側で、冷静に見るべき兆候もあります。
地価上昇率の鈍化
不動産取引件数の減少
海外からの投資資金の変調の噂
永遠に上がり続ける市場はありません。ブームが最高潮に達したタイミングは、往々にして「高値掴み」の最も危険な時期でもあります。特に、返済原資を「1年後の不動産売却」のみに頼るような短期決戦型のファンドでは、市場のわずかな風向きの変化が命取りになりかねません。
【ケーススタディ】リスクを総合評価するとどう見えるか?
さて、これまで見てきた4つのチェックポイントを、「ある案件」に当てはめてみると、どのような評価になるのでしょうか。あくまで独自分析として結果を共有します。
評価結果
安全性評価:(極めて低い)
リスク評価:(極めて高い)
なぜ、これほど厳しい評価になったのか。それは、提示されていた目標利回りが、分析の結果見えてきた元本毀損の可能性に対して、十分な対価とは言えないと判断したからです。
この投資の成否は、①財務的に厳しい状況にある可能性のある借手が、②評価額の算出根拠が必ずしも明確でない資産を、③ブームがピークアウトする兆候も見られる市場で、④計画通りに売却できる、という複数の楽観的な仮定がすべてクリアされることに依存しているように見えました。
一つでも歯車が狂えば、投資全体が崩壊しかねない。そのように結論付けました。
まとめ:あなたの大切な資産を守るために
本記事で見てきたチェックポイントは、決して特別なものではありません。
ポイント
- 運営者は信頼できるか?(過去の行政処分歴は?)
- 融資先は健全か?(返済能力はあるか?)
- 担保評価は妥当か?(評価の根拠は?)
- 市場環境は追い風か?(ブームの終焉リスクは?)
これらは、賢明な投資家であれば、必ず自問すべき基本的な項目です。
魅力的な利回りには、必ずそれ相応の理由(リスク)が隠されています。プラットフォームが提供する情報を鵜呑みにせず、その裏側にある構造を読み解き、自ら考える「投資家の目」を養うこと。それこそが、不確実な時代に、あなたの大切な資産を守るための最も確実な方法なのです。
免責事項:本記事は、特定の金融商品を推奨または非推奨するものではなく、あくまで情報提供を目的としています。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願い申し上げます。